こんにちは、VIVITAコミュニケーターのさかいです。 2019年9月から10月にかけて開催された「VIVITA ROBOCON 2019」の振り返りを全6回(不定期更新)に渡ってお届けするシリーズ、第三弾は東京都世田谷区におけるVIVITA ROBOCONへの道のりをご紹介します。
VIVITA ROBOCONを牽引した小金丸&小林コンビが、一般社団法人マナビダイスキ理事 高橋明子さんにお話を伺いました。
【活動拠点データ】
■活動拠点:東京都市大学夢キャンパス
東京都市大学が運営するフリースペース。地域との連携活動や教育研究活動、子どもたちが保護者と一緒に科学やものづくりを楽しみながら学ぶ活動の場所として使用されています。■運営母体:一般社団法人マナビダイスキ
学びのコミュニティ事業を主に行う一般社団法人が母体となってロボット製作ワークショップを運営しています。参加者の保護者や地域の大人、東京都市大学工学部の学生を主とした団体「機親会」の学生が活動をサポートしました。■参加人数:20人
泰蔵さんとの出会い
小金丸:改めて、VIVITA ROBOCONのご参加ありがとうございました。長期間、お疲れ様でした。
高橋:こちらこそ、ありがとうございました。
小金丸:早速ですが、VIVITA ROBOCONに参加していただいた経緯を伺いたいです。最初に出会ったVIVITAのメンバーは大野さんですか?
高橋:一番最初という意味では、泰蔵さんです。私はKMD(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科)に通ってまして、泰蔵さんが時々ゲスト講師でお越しになっていたんです。授業でPiccolo(VIVITAの前身)の話を伺って、「子どもはどんなに面白いものを作ってもすぐ飽きるけど、飽きさせないものを考えたんだよね。フフフ・・・」とおっしゃっていたんですよ。
一同:(笑)
高橋:その時は、それが何か教えてくれなかったんですね。でもずっと気になって情報を追っていたらVIVITAに辿り着いて、ああ、これに違いない、と思ったんです。当時は子どもが生まれたばかりで柏の葉まではなかなか行けなかったんですが、その後、仲間と学びに関わる活動を始めたときに柏の葉に行く機会があったので、VIVISTOPに立ち寄りました。そしたらやっぱり、とてもいいなと思いまして。「こういうのを世田谷でも作れませんか?」と聞いてみたら、軽い感じで「作れますよ〜!」と言ってくださったのが大野さんだったんですよ。「なんだ、作れるのか!」と。(笑)
VIVITA ROBOCONとの出会いというより、泰蔵さんとの出会いがあり、泰蔵さんの価値観に共感して情報を追いかけていたら、それがVIVISTOPという具体的に見えるかたちになって、「その見えるかたちを自分の近所に欲しい!」と思ったのが始まりです。
でも私は普通の一市民なので、VIVISTOPを作りたいなら協力者を探すしかないと思って、大野さんにも来ていただいたりしながら、世田谷のなかで「こういうのをつくりたいんです!」とあちこちでぶつぶつ喋っていたんですよ。そんなことを積み重ねていたとき、「柏の葉だけだったVIVITA ROBOCONを多拠点で展開して、全国大会みたいなかたちで開催するので世田谷でもどうですか?」と誘っていただいたので、あまり深く考えず、ROBOCONがどんなものかもよく分かっていない状態で「やります!」と言ったのが参加の経緯です。
子どもを預かることの責任
小金丸:価値観に共感したところから始まったんですね。実際に取り組んでみて、環境を整える準備期間やロボットの制作期間は、どんな苦労がありましたか?
高橋:まず一番に場所ですよね。最初は、公共施設でやればいろんな人が参加できると思って世田谷区に相談したのですが、難しくて。場所が決まらないと何も始まらないので、まずはそれが大変でしたね。
サポーター説明会を開いても誰も来てくれなかったり、他にも大変なことは多々ありましたが、そんなものかなという感覚でした。
ただ、「子どもを預かる責任の重さ」は、強く実感しました。始まる前、ROBOCONを実現するために必死に走り回りっていた頃は、その段階で起きるいろんな課題は乗り越えられるし、どうにでもなると思っていました。でも、実際に製作活動が始まってからは「子どもに自由に自発的に、楽しく安全に活動してもらう」ことの難しさをヒシヒシと感じましたね。製作プロセスが進み、大人も学生も子どもも助けあい、皆で子どもを見守り合うというスタイルが、世田谷コミュニティの中でできていったと思います。結果的に、保護者にも子どもにも、学びが多い環境になりました。
小金丸:場所選びから始まって、環境整備したり協力者を集めたり、大変なことはたくさんあったのではないかと思います。活動を通じて、子どもたちにまつわる新しい発見はありましたか?
人生が変わるような体験
高橋:初めて来た時と、活動が終わりを迎える頃とでは、顔つきが大きく変わった子もいました。初期の頃は自分の意思を発することが少なかった子どもたちが、製作が進むにつれて明らかに表情が変わり、自分がどうしたいのか意思や意見を伝えてくれるようになりました。後々保護者の方にお聞きしたら、今回のROBOCONは人生が変わるくらいの体験だったと言ってくださった方もいました。そういうことが起きる場所であったことは本当に嬉しくて、ありがたい言葉でした。
小金丸:僕も変化を目の当たりにして驚きましたね。変わったというより、そもそも隠してただけなのかなと思うくらい。
高橋:それが本来の姿なんでしょうね。
私もサポーターの皆さんも、ロボット製作はもちろん、拠点の運営も初めて経験することばかり。自分から「こうしたい」とコミュニケーションを取ってくれる子どもにはサポートできるんですが、意思表示がないと、なかなか行き届いていないなぁと感じていました。
そこで、世田谷予選の前に保護者経由で皆に「やりたいこと、困っていること」を聞いたんです。すると「坂道が登れない」と言う子がいたので、サポーターの一人が「テンプレロボットのタイヤの大きさのままだと坂を登れないけど、タイヤを大きくして登っている子の図面データを借りて大きくしてみる?」って提案したら、「やる!」と。その後もいろんな人の助けを借りて、坂を登ってボールを取れるようになりました。
その子は自宅でも過去のVIVITA ROBOCONのYouTubeをせっせと観て研究していたらしいんですよ。そこまで夢中になった姿は初めてみたと親御さんもおっしゃっていて、本当に好きなこと、やりたいことなら、子どもは主体的にどんどん動くんだ、ということがよく分かりました。
全国大会にも出場して、あの雰囲気にも動じずにしっかり目標の点数をとり、帰り際に「次はいつですか?」って。「決まったらすぐに連絡します!」と答えました。(笑)
小金丸:すごいですよね。普通はやはり緊張するものなんですが、世田谷は大人も含めて緊張感より熱気のほうがありましたね。
高橋:(全国大会会場の)池尻大橋は世田谷にとってはホームみたいなものですからね。(笑)
小金丸:制作期間の間に子どもたちが自信をつけたり、大人との関わり方で変わっていくプロセスを見ることができるのは本当にいいなと思いました。世田谷大会では高橋さん自身が司会をなさっていましたが、初めての大会開催はいかがでしたか?
10月3日に開催された世田谷予選の様子
プロセスと結果を切り離す葛藤
高橋:中継を入れてもらえたり、ロボットが動かないときにバックステージでサポートしてくれる体制が整っていたり、とてもありがたかったです。VIVITAのみなさんには感謝しかないです。
どうやって全国大会出場者を決めるか、ということにはすごく葛藤がありました。ある意味それが、これまでの活動の結果と成果になるので、主催者として本当に悩みました。最初は投票制などいろんな案を考えたんですが、どれをとっても一長一短があって。
製作時にうまく動かなくて何度も何度も諦めずに頑張っていた子どもたち一人ひとりの姿を思い出しながらも、プロセスと結果は切り離し、公平性のある点数制がいちばん良いという結論になりました。
小金丸:各地域の大会では主催者の評価基準やルールで全国大会の出場者を決めて欲しいという方針でしたからね。さまざまなことを決める上でたくさんの葛藤があったのではないかとお察しします。
高橋:地区大会でも思うようにロボットが動かなくて悔し涙を流した子もいましたが、しばらく後に再会したときに、「製作の時はほとんどがうまくいかなかったから、これからの人生もいっぱい挫折があると思うけど、たぶんいろんなことが大丈夫になると思う」って話してくれたんです。カッコよすぎでしょ。大人にはなかなか言えませんね。
小金丸:それは素敵ですね。
ところで、学生さんとサポーターエンジニアの遠藤さんが実況を務めましたが、盛り上げ方が上手で驚きました。
高橋:遠藤さんは司会をしたのは初めてだったそうですよ。
小金丸:えー!?
髙橋:遠藤さんが人前で話している姿を見た同僚の方が驚いていました。(笑)
きっと大人や学生も、ROBOCONの活動を通じて子どもに感化されて、いろんなチャレンジをしていたのだと思います。
多様性を体感できる場所
小金丸:さて、主催側ではなく、出場者として参加した全国大会の所感はいかがでしたか?
高橋:世田谷とは全く異なる発想のロボットが出場していて、同じことに取り組んでいても、いろんな発想やアウトプットがあるんだなあと。世田谷は、テンプレロボットのアーム部分を工夫をするところまでがほとんどだったので、もっと自由に発想させてあげられたらよかったと、ちょっと凹みながら観ていました(笑)。
そして、せっかくのご縁なので、他の拠点の方とも関われたら良かったなと思いました。海外の各拠点からメンバーが集まっているので英語が飛び交っていたり、赤ちゃん連れの親子がいたり、中学生や高校生もいる。リアルに多様性ってこういうことだよね、というのを体験できたことも、全国大会に参加した子ども達にとって良い機会になったと思います。
小金丸:ありがとうございます。色んなことを感じていただけて嬉しいです。 今後VIVITAと一緒に取り組んで行きたいことはありますか?
髙橋:泰蔵さんやVIVITAさんの価値観への共感からスタートして、ずっとVIVISTOPを作りたいと思ってきましたが、子どもたちと親御さんたちの熱意に押されて、まずはこのROBOCONの続きをすぐやりたい!と思っています。これからも良いパートナーシップを保ちながら、一緒にチャレンジさせてください。
小金丸:高橋さんが非常に嬉しそうにお話されているのが印象的で、思いが伝わってきました。こちらこそ、今後ともよろしくお願いいたします。ありがとうございました。
<高橋さんからのお知らせ>
世田谷で3月から「みんなで創るロボコンプロジェクト 2020SPRING」がスタート!
子どもたちとの約束どおり、VIVIWAREを使ったロボット製作のプロジェクトが、この春に世田谷でスタートする予定です。拠点は前回同様、東京都市大学二子玉川夢キャンパス。夏の活動に関わった保護者を中心に立ち上がった一般社団法人CO-SAKU谷の主催です。
世田谷から、今度はどんなロボットとストーリーが生まれるのか、とても楽しみです。
▼「みんなで創るロボコンプロジェクト 2020SPRING」詳細はこちらから https://cosakudani.wixsite.com/co-saku-dani
インタビューを終えて
「どうしても世田谷にこういう場所を作りたいんです!」
2年半前、そうまっすぐ語りかけてくださった高橋さんの熱量を今でも鮮明に覚えています。あぁ、本当にこういう方と一緒に動きたい、そう思ったからです。そんな出会い以降、さまざまな場でご自身の思う教育やコミュニティの新しいあり方について訴え続けてきた高橋さん。そんな彼女が作った子どもたちとの「場」は、とてもあたたかく、エネルギーに溢れ、常に活気があり、まるで「高橋さんそのもの」でした。子どもも大人もとにかく楽しんで活動にとりくんでいた姿が印象的です。そんな高橋さんが創り出す場で、今後子どもたちがどんな活動を広げていくのか今からとても楽しみにしています。(大野)
世田谷は子どもも大人も非常にエネルギッシュな印象で、制作過程でも世田谷予選でも、頑張っている人を皆で助けあったり、応援したりするという一体感がすごかったです。サポーターの方は初めてのことだらけで試行錯誤だったと思いますが、制作過程ではオリジナルの進捗管理表を作るなど、自分たちで考え運営する姿勢に感銘を受けました。子どもも大人もどんどん変わっていく姿を目の当たりにして、刺激的な日々でした!(小金丸)
次回は「VIVITA ROBOCONへの道 #4:高知/さかわ編」をお届けします! お楽しみに!