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スタートアップのハードウェア開発環境

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はじめまして

 なんか「VIVITA、ブログはじめるってよ」みたいな感じなんですが、なんと栄えある第1回目を任されました、ハードウェアエンジニアの嶋田 @shozaburoです。さて、その1回目なんですが、今日は会社のハードウェア開発環境をご紹介したいと思います。

 なぜ最初にこのお題を選んだのかと言うと、私はVIVITA最初のエンジニアで、開発環境をイチから整備しなければならず、それなりに苦労を経験したからです。大手企業のように金銭面で余裕があるわけではないので、性能とコストを天秤にかけながら選定をしました。

 これからハードウェアをはじめようと思っているスタートアップの方(もしくはハードに興味のある個人の方)にも少しでも参考にしていただけるように、今回はどういう基準でその機材を選定したのか、どういう優先度で購入をすすめるべきか、そういった観点も含め紹介していきます。

機材

紹介順はよく使用するものから。

はんだごて: HAKKO FX-950

 電気三種の神器のひとつめで、これがなければはじまりません。 選定のポイントは、「温度調整ができること(熱復帰力能力含む)」「こて先が交換できること」です。 前者に関しては、鉛フリーハンダの際に力を発揮します。

[HAKKO] 白光株式会社 | メンテナンス・トラブルシューティング・使用例 | 鉛フリーはんだを使用するとなぜ、酸化しやすい?

 後者に関しては、プリント基板のはんだ付けを行う際に力を発揮します。具体的には大きいプットプリントパターンの場合は、熱が基板に拡散しやすいためはんだが綺麗に溶けませんし、逆に1005, 0603などの小さい部品を取り付ける場合には、小さいこて先でないとうまくこてが入らないからです。

 また、コテ先交換の手間や、ヒートガンを使うまでもないちょっとした部品の取り外しのために、(余裕があれば)はんだごては2つ買うことをお勧めします。

デジタルマルチメータ:Proster VC99

 三種の神器のふたつめ。とりあえず簡単な評価が可能です。主に、電圧測定(信号がきちんと出ているか)、抵抗値測定(故障がないか)、導通チェック(離れた位置の信号と信号の接続を確認)などに使用します。一台目はハンディータイプな方が持ち運びができて便利です。また、精度が必要なものではないのでそれなりの耐久性があれば安価なもので良いと思います。

 今後量産が見えてくると法規制などのために精度の高い測定が必要になりますが、そのときにはハイスペックな据え置きタイプを購入しようと考えています。

オシロスコープ: Tektronix MDO3024

MDO3000シリーズ・ミックスド・ドメイン・オシロスコープ | Tektronix
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 電気三種の神器のみっつめ、電気を信号として観測できより高度な評価が可能になります。 まずメーカーは前職で使い慣れていたTektronixさんにしました。ただし、Tektronixさんのオシロは高価なので、初めてオシロを買う方や個人の方は中国製の安いものから初めてもよいかもしれません(Rigol、OWONなど)。

 数あるTektronixさんのオシロの中からMDO3000シリーズを選んだのかというと、他のシリーズにはない「周波数帯域を後からアップグレードできる」という特徴を持つからです。

 オシロの帯域の選定は非常に重要で、帯域が十分でなければ正しい波形を観測できません。デジタル信号は矩形波で高周波成分を多く含むため、一般的に観測したい波形の4倍は必要だと言われていますが、オシロは帯域があがれば値段が跳ね上がるため、安易に広帯域のものを選ぶことはできません。

 しかし、このアップグレード機能があれば、まずは低い性能を購入しておき性能が物足りなくなればアップグレードすればよいので、購入に踏み切る大きな要因になりました。私は前職では500MHz帯域(150 ~ 200万程度)を使用していましたが、今回は200MHz(60万程度)を購入しました。

 チャンネル数に関しては問答無用で4chです。これはシグナルのシーケンスを見るためです。

安定化電源: KIKUSUI PMX18-5A

 電気三種の神器のよっつめ...(あれ???)とりあえずこれも必須です。任意の電圧レベルの電源を生成できます。また、安全のため任意のレベルで過電流保護をかけられます。基板を作成して最初に基板に電源を入れる際(業界用語で火入れ)は、最初は過電流保護をかなり低めに設定して、ショートがないことを確認したりするのに使います。

 安定化電源も前職で使用していたKIKUSUIを軸に選び、電圧は自分が使用するであろう最大の電圧系の5Vから十分にマージンをもった18V、電流は使用する可能性があるUSB type-C(USB PD除く)の最大電流3Aから少しマージンをとって5Aとしました。

 しかし、最近の開発では昇圧回路を設計していることがあり、入力側に大きい電流が必要になってしまったため、5Aでは物足りなくなってしまいました...(10Aくらい欲しい)

ヒートガン: WEP 858D

 プリント基板の心強いお供です。QFN等の足が多いICをはんだ付け、もしくは取り外す際に使用します。このヒートガンは安くて怪しい中国製なのですが、普通に使えています。プリント基板の設計を始めたら必須です。

電子負荷: KIKUSUI PLZ164W

多機能 直流電子負荷装置|PLZ-4Wシリーズ:概要・用途・特長|菊水電子工業(株)
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 いろいろな負荷を作り出せる装置です。電源回路の設計には必須です。何らかのプロダクトの回路設計には、電源回路が必要なので、これが無ければ回路評価ができません。しかし、最初の手作りプロトなどではありものの電源モジュールを使うことが多いでしょうし、後回しな装置ではあります。

番外編

回路CAD: KiCAD

KiCad EDA
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 回路設計用のCADソフトです。回路設計のCADもいろいろとあるのですが、一般的な企業が使うCADは非常に高価です(ケイデンス、図研 etc.)。個人利用として有名なものはEagleかと思います。私も社外活動で回路設計をした際はEagleを使用していました。有料ライセンスもそこまで高くはありません。一方、KiCADは個人利用として注目されたのは比較的最近ですが、こちらはオープンソースということがありすべての機能が無料で使えます。

 では、なぜEagleではなくKiCADか?理由はいくつかありますが、ひとつはライブラリ周り。Eagleの場合、回路図シンボルとフットプリントデータを合わせて一つの部品にしてライブラリ管理しているのですが、KiCADの場合は、シンボルはシンボル、フットプリントはフットプリントとして別々に管理しており、後からその組み合わせを変更することができます。Eagleに比べて、シンボル、フットプリントの流用性が高く管理が容易です。

 もう一点はKiCADのリアルタイムDRC機能。回路図を作成した後に基板への配線作業(アートワークという)があるのですが、基板の製造上の都合で守らなければならないいくつかのルールがあります(配線と配線を近くしすぎないとか)。そういったルールを事前に入力しておくことで、配線作業をしながらルール違反の場合はアラートを上げてくれます。普通のCADはDRCチェックというボタンを押して初めてチェック作業が行われるため、エラーがでたときには多くの手戻りが発生することもあります。リアルタイムDRCはそういった手戻りがないため非常に便利です。

最後に

 もし、ハードを製作するのであれば、それが例え外注だったとしても何かあったときにすぐに手元で確認する必要があるので、最低限の機材は揃えて置きたいところです。もし、より詳細に知りたい!見てみたい!ということがあればぜひ弊社に遊びに来てください!

(実際の購入については自己責任でお願いします!)