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VIVITAのツボ#1「VIVISTOP NOTE -Scrap & Rebuild Project 2019 -」ほぼ一万字対談 —野焼きプロジェクトが本になったことについて話そう。

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VIVITAのツボとは!?
VIVITAでは日々、多岐にわたるプロジェクトが遂行されています。それらのプロジェクトに関わっているヒト、そこから生み出されるモノ・コトについて、代表の孫泰蔵が聞きたいことを聞きたいだけ聞くコーナーです。

「VIVISTOP NOTE -Scrap & Rebuild Project 2019 -」が完成したことを、Scrap & Rebuild Project チーフリーダーの佐藤 桃子(以下「momoko」)とデザイナーの馬瀬戸 薫(以下「馬瀬戸」)が、VIVITA代表の孫 泰蔵(以下「泰蔵」)に報告、手渡しするとともに、デザイナーの今冨 啓太(以下「mix」)を交えて対談をおこないました。

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対談メンバー(右から)泰蔵、馬瀬戸、momoko、mix


まえがき

■「Scrap & Rebuild Project(別名:野焼きプロジェクト)」とは?
2019年2月。なんの計画もなしに、とりあえずVIVISTOPをからっぽにすることから始まった「Scrap & Rebuild Project」。どんな場所にしていくか子どもも大人も一緒になって考え、まっさらな状態からVIVISTOPをアップデートしました。
新しい草がよく生えるように野原の枯れ草を焼く、農作業のプロセス「野焼き」のしくみと似ているため、別名「野焼きプロジェクト」と呼んでいました。

■「VIVISTOP NOTE -Scrap & Rebuild Project 2019 -」について
Scrap & Rebuild Projectの活動の記録が、それぞれ特徴が異なる4種類の冊子になりました。

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(写真右上から)
① STORY:プロジェクトの発端からこれまでの心境の変化、気づきや葛藤などが赤裸々に綴られたドキュメント。
② scenes:切り取った風景をアルバムのように時系列で振り返るフォトブック。
③ 道具図鑑:野焼きで生き残った、VIVISTOPで愛され続ける道具たちの名称や使い方をまとめた図鑑。
④ VIVIPAPER:VIVIFURNITURE(新しくできた家具)の解説や、コラム、座談会など、様々な立場・視点が詰まったマガジン。

編集:オンデザイン/BEYOND ARCHITECTURE編集部
デザイン:terminal Inc.
写真:菅原 康太、前川俊幸

■柏の葉コラム by momoko
\「VIVISTOP NOTE -Scrap & Rebuild Project 2019 -」の発注もできます/ kashiwanoha.vivita.club


長い長いプロジェクト

momoko:
野焼きプロジェクトの冊子が完成しました!

mix:
長かったですよね。写真で見ると、結構昔のものですよね。

momoko:
一昨年の冬くらいから構想が始まって、工事が終わったのが7月なので、それだけでも半年ですね。

泰蔵:
(「scenes」を手にとって眺めながら)これは何ですか?

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momoko:
これはVIVISTOPが空っぽだった時に、広いから大きい絵を描きたいってまどか(VIVISTOP柏の葉メンバー)が言い出して、穴山さんたちがあの床いっぱいに模造紙を繋げて広げて描いたっていうものなんですよ。

mix:
空っぽだった期間ってどれくらいありましたっけ?

momoko:
2月に空っぽにして、工事に入ったのが7月の頭なので、四ヶ月半くらい。 結構長かったですね。 でもとにかく、この冊子を作るのに時間がかかりましたね。

mix:
この冊子は最初から作る予定だったんですか?

momoko:
そうですね。 試行錯誤するプロセスに価値があるんじゃないかなと思って。野焼きプロジェクトでご一緒したオンデザインさんが「BEYOND ARCHITECTURE (http://beyondarchitecture.jp/)」というオウンドメディアを持っていて、その編集長の方や記者の方に最初から入っていただいて、記録していました。

mix:
最初から本にする構想がありつつ、 じゃあどういう本にするか?という企画は、プロジェクトが終わってから情報を並べてそこから考え始めたんですか?

momoko:
プロジェクトを進めながらだったんですが、それでも終盤に近づいてからですね。

馬瀬戸:
この4分冊の構成内容が固まったのは、割と最後の最後です。撮りためた写真を時系列に並べていくイメージは最初からあったんですが、関わる人も多かったし、いろんな視点があるな、と。多様な観点があるのはVIVITAの良いところでもあるから、せっかく紙にするんだったら、それが伝わるような仕様にしたいと思ったんです。

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mix:
4冊がそれぞれ、異なる視点や観点を持っているということですか?

新聞記者の鋭い視点、雑誌編集者の柔軟さ

momoko:
そうですね。例えばこの「STORY」は、時系列でどういうことを考えてきたかを文章で綴ったものです。

馬瀬戸:
momokoさんの葛藤や悩み、もやもやしたことが赤裸々に書いてあります。「STORY」はVIVITAの大人や、教育関係者の方なんかがじっくり読めるようテキスト重視にしていますが、フォトブックの「scenes」は子どもたちと一緒に眺めながら振り返ったりできるように作ってあって、目的によって変えていますね。

泰蔵:
この「子どもたちが求めているのは、家具ではない。それが生み出す領域や時間なんだ。」という文章は、誰の言葉ですか?

momoko:
これは、プロジェクトでご一緒したオンデザインの榎本さんですね。やっぱり、彼らもすごく悩んでいたんですよ。単純に子どもたちが考えたアイデアをレイアウトしていけばいいかっていうと、そうじゃないんじゃないか?っていうことから、領域の話になったんです。

泰蔵:
深いですね。その辺りのことって、通常モヤモヤするところなので言語化されずにスキップされてしまいがちですが、その途中の過程がうまく言語化されているところが非常に良いと思います。

momoko:
(BEYOND ARCHITECTURE編集部の)谷さんの存在が大きかったですね。もともと新聞記者の方なんですが、要所要所でやって来て、今何を思ってます?みたいな取材をされるんです。例えば移動しなきゃいけないときに、駐車場まで一緒についてきて歩きながら、今どういう感じですか?ってインタビューされたり。新聞っぽいなぁ、と思いました。

泰蔵:
確かにそう言われると、新聞記事のような雰囲気ですね。日曜版とかね。

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momoko:
谷さんはすごく真面目なタイプの記者さんなので、良い意味で硬さがありますよね。 一方、BEYOND ARCHITECTURE編集長の宮下さんはずっとカルチャー誌の編集に携わっていた方なので、マガジンスタイルの「VIVIPAPER」は、ザ・雑誌という印象に仕上がってます。

馬瀬戸:
コラムや解説など、いろんな人の視点で綴られています。このアイデアはどこから来たのか?みたいなことを、分かりやすくまとめてあったり。

momoko:
オンデザインの小泉さんの文章はすごく面白いですよね。まちづくりや建築の観点で、今回のプロジェクトのどこが面白いと感じるのか書いてくれました。

mix:
全部で何人くらい関わったんですか?

momoko:
編集者やデザイナー、カメラマンなどを含めると10人近いですね。

mix:
僕もエンジニア座談会の似顔絵を描きました。

momoko:
あのエンジニア座談会も良かったですよね。やっぱり我々だけだと恥ずかしいじゃないですか、こういうのって。(笑)

泰蔵:
みんな結構良いこと言ってますね。それぞれの考えがよく分かりますし。

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momoko:
それぞれの考え方の違いが可視化されることってあんまりないから、そういう観点の持ち主なんだって分かって、いいですよね。ベースにある考え方の違いを無視して話していると、分かり合えないと言う感覚だけが残って終わりますけど、この人はこういう立場なんだなって分かっていれば、きっとお互いにやりやすくなりますよね。

イチオシの道具図鑑

mix:
momokoさんの思い入れがあるところ、おすすめはどのあたりですか?

momoko:
「道具図鑑」がイチオシです。実はこのタイミングでVIVISTOPの道具類も野焼きしたんですよ。全部空っぽにして、欲しいものや必要なものだけ戻したんです。

mix:
イチオシの理由は何ですか?

momoko:
今回の野焼きで、使えない道具や子どもが使えるようになる目処が立たないものはどんどん外しました。だからこの図鑑に載っているものは、みんなにとって使いやすいスタンダードな道具ばかりです。

それと、ドリルドライバーだとかペンチだとか、私たち大人は馴染みがある名称でも、子どもは知らないということが割とあります。名前が分からないと全然自分のものにならないと思うし、道具の名前を知れば、そこからイメージを膨らませることもできると思うんです。この本が、子どもたちの出来ることやりたいことを広げていく後押しになるんじゃないか、という意味でイチオシですね。

mix:
今後に活かしていくためにまとめた、という意味ではすごく良いですね。実用的ですし。

馬瀬戸:
VIVISTOPに来たばっかりの子が、どんな道具があって何に使うのか、この本をおうちに持って帰って知って欲しいなと思っています。

行動を誘発するデザイン

mix:
4冊ともそれぞれ紙も違えば印刷も違いますね。そこをバラバラにしていることには、どういう意図があるんですか?

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momoko:
このプロジェクトって、工事が終わったらおしまい、ではなくて、作り変えていく文化をどういう風に繋いでいけるか、今後も考え続けていくんだろうと思うんです。そう考えると、ここに挟む冊子をまだ増やしていいんですよ。

まだ増やしていける拡張性とか、順番を入れ替えられる柔軟性とか、それぞれがバラバラなんだけどVIVISTOPというゆるいまとまりで繋がっていることとか、諸々をひっくるめて4分冊、かつ仕様も全て異なるというスタイルになっているんです。

泰蔵:
行動を誘発するいいデザインになりましたね。このシールを変えれば他にも使えるの?

momoko:
そうです。このプロジェクトに関する要素はシールの中にしか入れてないので、これからも使えます。

泰蔵:
拡張性やモジュール構造が反映されていて、素晴らしいと思います。

mix:
作っていく過程では、何が一番大変でしたか?

馬瀬戸:
構成や内容がまとまらなかったことですね。構成が変わったから内容も見直そう、って何度も行ったり来たりして。

momoko:
写真も結構セレクトし直しましたね。

mix:
どんな流れで作ったんですか?

momoko:
時系列でまとめることは想定していたので、この「STORY」の原稿は最初にあったんですよ。でも、それをどうまとめるか?ということが決まらなくて。

そろそろ工事も終わるし、まとめにかかりましょうというタイミングで、アートディレクターの方から、多様な視点があるっていう部分を立たせたほうがいいから4分冊にするのはどうですか?って言われたんです。

それは面白いけどそんなパワーありますかね?って最初は尻込みしたんですが、やっぱり面白いからやりましょうと、4分冊になりました。「STORY」が一番最初に出来上がって、写真集や道具図鑑が出来て。でも実は、「VIVIPAPER」に関しては最終段階までほぼ見てないんですよね、私たち。

馬瀬戸:
そうですね、「VIVIPAPER」は構成も見てないですよね。掲載されているコラムやVIVIFURNITURE(新しく作った家具)の解説などは担当を決めて原稿を執筆していただいて、それらの材料を編集長に提供して・・・と言う進め方で。4冊とも、進め方が違いました。

4つの異なるアウトプット

泰蔵:
野焼きプロジェクトっていう一連の仕事の取りまとめが、こんな風に4種類のアウトプットになるなんて、想像できない。だってある意味、全く違うものじゃない?普通だったら、絶対にこうはならないと思うんですよ。だからすごいなって驚いてます。

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mix:
普通じゃないから、どういう過程で生まれたかっていうことにすごく興味がありますね。

momoko:
普通、ゴールを設定したらそこに向かって収束していくと思うんですけど、そもそも、野焼きそのものが何かを解決するために何かを変えるというプロジェクトじゃないから、スタートしたら発散していっちゃうじゃないですか。

オープンエンドなんだけど、何らかの調和がもたらされて欲しいと葛藤しながら進めてきて、その苦労は関わった全員と共有できていたと思うんです。だから本をまとめるタイミングでも、一つの結論を伝えるための本作りじゃないなっていうコンセンサスは取れていた気がするんですよね。

泰蔵:
なるほど。プロジェクト自体がオープンエンドだったから、本を作ることも自ずとオープンエンドになる。

momoko:
そうなんですよ。

馬瀬戸:
これはもしかしたら綺麗にまとまらないかもしれないけど、それはそれでいいじゃん、って話してましたね。まだ野焼きプロジェクトがうまくいくか分からない状況で、まとめ方だけ綺麗に取り繕ったところで仕方無いから、ありのままを書いていこう、と。

泰蔵:
すごいことをさらっと言ってるんだと思うんですけど・・・。

momoko:
VIVISTOPを空っぽにしたタイミングでも構成案は出てたんですが、それでどうですかって言われても、野焼きがどうなるか分からないから判断がつかないなぁ、という話をしていて。いざ工事が終わってまとめなきゃという段階になった時、一個の結論を伝えて「私たちこんな素敵なことやったんだけど、どう?」みたいな本にしても、どうせ誰も読まないだろうなと思ったんです。

記録してきたことをまとめながら、これは本当にどういう価値があったのかなってずっと考えていて。プロジェクトのことを皆と話したいから、話しやすい形にしなきゃっていうのを意識していた気がします。

泰蔵:
それで言うとね。この「STORY」は分かるんですよ。どういう顛末で始まって、その時にどういうことを考えたか、何が機能したかっていうことをきちんと記録しておけば、次に何かやろうとする人の参考になるだろうし、自分たちも振り返りが出来るから、意味がある。

「scenes」も、素敵な風景がいっぱいあったから良い紙で残そう、というものよく分かる。「道具図鑑」に関しては、momokoさんが収納や道具ってことに対してとてもコンシャスな人だからいつか作りたいと思っていたのだろうし、単体の企画としても理解できます。

だけどね、「VIVIPAPER」の存在が不思議すぎる。どうしてこれを作ろうと思ったのか知りたいです。

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momoko:
どちらかと言うと、「STORY」と「scenes」の2冊だけになると思っていたんです。これとこれが合わさって、こういうマガジンスタイルにまとまるんじゃないかという想定だったんですよね。

重層的なコンテキスト

馬瀬戸:
もともと「STORY」と「scenes」だけ先に制作が進んでいたんです。でも「scenes」だけ見ていると、例えば家具はダンボールのアイデアがそのままデザインになったような印象を持たれるかもしれなくて。「VIVIPAPER」はそこを補完してくれる材料として作りました。この三冊を行ったり来たりしながら読むことで、いろんな情報を補完し合える関係が成り立っています。中身も被ってるようで被ってないんです。

momoko:
関わった人も多いし、それぞれみんな悩んだし、ここに全部入らなかったんでしょうね。(笑)

馬瀬戸:
今回の野焼きだけじゃなくて、他の拠点でまた空間のプロジェクトがあったりしたときに、「VIVIPAPER」のVol.2が作られたらいいなと思って、毎月発刊されるようなイメージのマガジンスタイルにしました。

momoko:
本って結論があるものだけど、雑誌って続いていくじゃないですか。野焼きはプロジェクトとして一回終わっているけど、その先、という話をずっとしていました。

泰蔵:
なるほど。4冊のフォーマットで出てくるってものすごく画期的。僕には絶対に思いつかない。いわゆる本の体裁にまとまった一冊が出来てくるんだろうと思っていたから、突然ここに物凄いものが現れて、本当に驚きです。

こんなにもひとつひとつのフォーマットが違っていて、しかも全部に拡張性があって。作った時期が異なるとか、それぞれが関係するとか続いていくとか、重層的なコンテキストが絡まり合っていて、すごいね。

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momoko:
訳が分からないですね(笑)

共創ってよく言うけど、一緒につくるってすごく難しいじゃないですか。人それぞれバラバラの考えを持っているなかで、お互いを尊重しつつも場としてはひとつにまとめる、ということをどう着地させていけばいいのか。そこを皆で悩んでいるときに「編集」という観点は共通のキーワードだったなと思っていたので、斜め上の発想で編集するとこうなるのか、というのが本のかたちにも残って良かったです。

プロジェクトの中心にいたメンバーに渡すときは、自分で製本してもらったんです。そうすると人によって閉じる順番が違うんですね。私の一押しはこの順番なんですけど、「VIVIPAPER」を先に出したりとか、おまけの道具図鑑を前に持って来たりとか。ひとりひとり違うってことを実現できるプラットフォーム的な形態になってますね。

でも意外と皆、製本してくれなかった。バラバラのまま持って帰りたいって言って。(笑)

mix:
その気持ちも分かるし、それはそれでいいですよね。

馬瀬戸:
そうそう、その人の使い方とか、使いたいフォーマットで持ち帰ってもらえればいいですよね。

momoko:
それは柏の葉の環境にも通じると思っていて。みんなバラバラの活動をすればいいけど、その一方でシェアしている場所だから、シェアする部分が無いと意味がない。じゃあそのバランスが取れる、ベースの部分って何だろうな、と言うことをずっと考えさせられたプロジェクトでした。

クリエイティブな強度に繋がる胆力

泰蔵:
では、ちょっと評論的に言うとね。本当にこんな形のものづくりって、僕は自分の人生のなかで見たことがないんです。これって、極めてVIVITA的なんだろうなぁって。それが教育に限らなくても、他の組織だと、こういうかたちでの本作りってまず無いと思うんですよ。

ゴールを定めてそこに向かって収斂していこうっていう風にやらないと、複数の人が絡んでコラボレーションでモノをつくるのは難しいという私たちの思い込みがある。で、絶対に空中分解するだろうという恐怖で収斂させたい、させましょうよ、って皆が自発的に言い合うようになりますよね。

VIVISTOP自体がオープンエンドな場だっていう部分があるからかもしれないけど、そのままプロジェクトとしてもオープンエンドで行こうって、大抵の人はそれに耐えられないと思うんですよ。いつまでって大体目処立てたいんですけどとか、どうまとめたいんですかとか絶対聞きますよね。

なのに、それを無理にまとめようとせずにそのまま進んで、これはこういうフォーマットでいいんじゃないって逆にまとめないことを是として、それを包含するプラットフォーム的なものにした

これって、とてつもないブレイクスルーのアイデアなんですよね。まとめないで最後に形にしちゃうっていう。だからこそ、普通では有り得ないまとまり方をしてると思うんです。

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momoko:
一個のゴールを決めたいと言うプレッシャーはずっとありました。私も不安だったし、皆も不安だったと思います。

泰蔵:
不安だからとにかく早くまとめよう、となるのが普通なのに、不安だと言いながらまとめない。(笑)その胆力が、このクリエイティブの強度になっているんでしょうね。

これってこうだよねと早いうちに決めつけないで、面白くなるような方向をそのまま、これが何なのかということも保留して進んでいくことって、本当に凄いもの、素晴らしいものを創るときには、すごく大事なことだと思います。

例えば宮崎駿さんもそうやって創ってると聞いたことがあります。普通はストーリーを決めてから原画を描き始めるものですが、彼はエンディングが全く決まっていないのに原画を描き始めて、アニメーターに渡していく。だから、この物語はどうなるんだって誰にも分からないし、宮崎さんに聞いても、俺も分からないって言われるっていう(笑)全体で何分になるかも分からないよ、みたいなことは映画の興業側からすると有り得なくて。

でも、それを耐えられる人たちがいるから、ジブリって素晴らしい作品が創れているんだと思うんです。ジブリに限らず、世界的にすごい人たちは皆そういうところがあるんですね。

momoko:
私が今回、プロジェクトを振り返って反省するところがあるとしたら、先が見えない状況を「耐える」っていう感覚が抜けなかったんですよね。耐える耐えないじゃなく、最初から最後までこの状況を楽しもうよっていうスタンスでやれたんじゃないかな、という気もしていて。

泰蔵:
それはそうだよね。常に追い求める理想のマインドセットだと思いますよ。でもね、皆が楽しむだけだったら、多分形になってないと思うんですよ。楽しい〜!っていうので、永遠にやっちゃう。

momoko:
たしかにそうですね。未だに工事してないかもしれないですね。

泰蔵:
本当にそうなんですよ。やっぱりそこはせめぎ合いであるからこそ、形にできるんじゃないかっていう。

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クリエーションと背中合わせの不安や葛藤

momoko:
切り捨てなきゃいけない瞬間が、無くはないですからね。だから、次はもっと違う、別のバランスの取り方や心持ちがあるんじゃないか、と最近思うんですよ。不安なんですけど、不安とのせめぎ合いからの、みたいな(笑)

mix:
VIVITAには割と多い不安ですね(笑)

泰蔵:
それは本当のクリエーションする人たち特有の、悩みや葛藤なんですよ。

mix:
プロジェクトによって関わる人も変わってくるし、今回のバランスが次にも良いかと言うと違ったりする。その時その時でバランスの取り方は変わりますよね。

momoko:
あとは、どういう立場や役割だったかも関係するのかなと思うんですけど、馬瀬戸さんどうでした?不安ありました?

mix:
今聞くんですね(笑)

泰蔵:
結構ハート強いタイプだと思うんですよ、馬瀬戸さんって。

馬瀬戸:
VIVITAに入って初めて関わったプロジェクトなんですよ。入社して一週間くらいのときに、momokoさんからお話を聞いて。さっき泰蔵さんがおっしゃってた、ゴールを決めずにやるような進め方は今までに全くやったことなくて、最初は本当に不安しかなかったです。どうしよう?大丈夫?来週の私何してる?みたいな感じで。

泰蔵:
不安をどんどん積んでいく感じですね(笑)
でも僕と個人面談した時は、結構楽しんでる様子と、良いものが出来てる予感を実感として持ってるのが伝わってきましたけどね。プロジェクト終盤だったからかもしれないけど。

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馬瀬戸:
そうですね、あの時はだんだん苦しさを抜けて、楽しくなってきてた頃ですね。泰蔵さんとの面談の当日か前日ぐらいに、ようやく4冊という全体像が見える!という感じだったんですよ。

mix:
それもスケジュールを組んでた訳ではなく、いつか来る、みたいな感じだったんですか?

momoko:
一応ありましたよ。締め切りはないけど、目標はありました。ここでオンデザインさんが内覧会したいって言ってるから、そこには間に合わせたいな、とか、年越したくないな、とか(笑)

馬瀬戸:
結構、スケジュールも行ったり来たりしましたよね。だからそれに付き合ってくれた編集チームの皆さんにも感謝ですよね。

momoko:
本当ですよね。

馬瀬戸:
全部白紙に戻してすみません、みたいな。

泰蔵:
関わってくださった皆さんたちも本当にすごいね。

momoko:
ギリギリの終盤でやっぱりごっそり変えたいです、とか言ったりして。あれ、私そういうつもりでやってなかったのに谷さんからはそう見えたのかなぁ、みたいな勘違いもあって、デザイン組まれた状態で上がってきたゲラを見て、こういうことじゃなくない?ってハタと気付いたり。印刷する前で良かった、みたいなこともありましたし。

VIVITAから生まれた「作品」として

泰蔵:
これはね、作品ですよ。本当にこれは、仕事じゃなくて作品になってます

momoko:
柏の葉にはしれっと置いてるだけで、子どもたちに改まって見せてないんですよ。ちゃんとお披露目しなきゃって思ってるんですけどね。

泰蔵:
きちんとお披露目する会をしたほうがいいですね。作品だから。

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momoko:
工事が終わった後、ずっとこれを編集しながら振り返って考えたいたときに、野焼きを日常にする、作り変えていくことを良しとするカルチャーを柏の葉で作っていきたいなと思ったんです。でも大人が行動しないと、それは出来ていかない。木だから壊れるし、改造していいし、やっていいよっていうのを見せないと伝わらないなと思って。プロジェクトとしては一回終わってるけど、これからも必要な物は自分で作っていいし、作り替えていいよっていうのをこの4冊とセットで提示したいと思ってます。だからお披露目するのであれば、単純に本できたよって見せるだけじゃないものにしたいですね。

泰蔵:
作品発表会にするべきですね。今回、何部作ったんですか?

momoko:
300部です。

泰蔵:
じゃあ、2人のサインを書いて、1/300っていうやつを額装しましょう。そしてどこかに飾りましょう。そしてこれをエディションの2番にしてください。

これは極めてVIVITA的なカルチャーから生まれた、プロダクトじゃなくて作品ですから、300あるエディションのうちの1番は、会社に置きましょう。

それが一個できると、VIVITAのなかでまた作品が生まれたら展示されるんだっていう道を拓くことになるので。5年10年経って、いろんな作品が本社の壁にバーっと並んでる光景は素敵じゃないですか。

そしてきっと他の人たちも、こういうレベルのものを生み出せるんだろうな、という予感がするよね。こういうものが身近に創られるっていうことを皆目撃していく訳だから。素晴らしいと思います。

momoko:
そうですね。ありがとうございました。なんかホッとしました。

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あとがき by mix

「VIVITAには正解なんてない。あるのはクリエイティブかどうかだ。」

僕の言葉である。笑。

デザイナーとして永く仕事をしていると、正解というものが付き纏うことが多い。 それほどに大人の世界には正解が多いし、人はすぐに既成の正解を求めてしまう。 結果として、映画のポスターには過剰なほどに謳い文句が足され、ECサイトには隙間なく広告が並ぶ。過去のABテストの結果という正解から皆安心する。

果たしてこれはクリエイティブなのだろうか?
過去の正解は今も正解のままなのだろうか?
何より作ってて楽しいのか?

デザイナーとしてこういう葛藤を持っている人は多いだろう。

そんな中、今回のインタビューで垣間見えたのはとてもクリエイティブな世界だった。 あえて正解のない環境に身を置き続け、皆がよりクリエイティブなものだけを見つめて協力し合えているようだった。慣れないことで不安も大きかったとのことだが、それすらも楽しそうに語っている姿には羨ましさをも感じた。
目先の利益や数字とは一線を画した、「VIVITAでしかできないこと」「VIVITAにしかない文化」に触れる価値あるインタビューだったと思う。

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(編集・境 理恵 × 窪田 有希 /写真・青木 孝太朗 /デザイン・mix)